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山口補佐官の憂鬱(後編)~かくも険しき情報セキュリティの道~

インターネット「開拓者」が語るインターネットの歩き方

前編では内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)の情報セキュリティ補佐官としてのお話を中心にうかがいました。後編では、山口補佐官ではなく、山口教授のこれまでを振り返っていただきました。実は、学者としての山口教授のあゆみは、日本におけるインターネットのあゆみと重なります。そこで、後編ではインターネットの成長を見守ってきた山口教授による「インターネットの歩き方」についてもお話をうかがいました。(前編はコチラ

山口 英氏

山口 英氏
(内閣官房情報セキュリティ対策推進室 情報セキュリティ補佐官
/奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科教授)

1964年静岡生まれ。大阪大学基礎工学部卒。奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科教授。工学博士。2004年4月より内閣官房情報セキュリティセンター(NISC) 情報セキュリティ補佐官に就任。2006年4月より内閣官房電子政府推進管理補佐官を兼務。

コンピューターとの「愛の生活」が始まるまで

★情報技術に出会ったきっかけは何だったのでしょうか?

―最初の出会いは高校のとき。アマチュア無線部の部屋に友人を訪ねにいったんです。無線には全く興味がなかったんだけど、そこに見たこともない物があった。「これなに?」と友人に聞いたら、「コンピューターだ」と。NECのTK80でしたね。そこで、こういうものがあるんだ、と関心を持ったのが最初ですね。
その友人から、プログラムのこと、ゲームのこと、他の色々なコンピューターのことを聞いて興味を持った。それから、当時雑誌『アスキー』ができたばかりで、それを読んでみると、世の中にはApple IIとかPETというコンピューターもあるらしい、これはすげえ!っと。

★なるほど。それで、無線部に入った?

―いや。

★コンピューターを買ったり作ったり?

―いや。その時は、興味を持っただけ。結構あっさりしていたね。他に煩悩がたくさんあったのでね。

★何をやってたんですか?

―自転車とバドミントン。

★全然関係ないですね(笑)。いつからコンピューター路線に向かわれたのでしょうか?

―コンピューターへの興味があったので、大阪大学の基礎工学部情報工学科というところに進みました。そこで、コンピューターとの生活が始まったんです。でもまだ煩悩が多くて、そんなに愛のある生活ではなかったですね(笑)。本当に遊んでばかりいました。そもそも僕はオタクではなかったんですよ。小さい頃からコンピューターをいじっているわけではなかった。

★コンピューターとの本格的な付き合いが始まるのはいつ頃から?

―2段階あるんです。まずは、大学3年の夏休みに、安西祐一郎先生(現・慶応義塾大学塾長)の『LISPで学ぶ認知心理学』という本と出会った。これは簡単にいうと、心理学でコンピュータを使おうという、当時斬新なアイディアについて書かれた本です。授業と関係なく読んでて、すごく面白かったのね。LISPのプログラミングもしたし。それが第1段階。第2段階としては、大学4年生でネットワーク系の研究室に配属され、UNIXに出会ったこと。ここから僕の人生が始まったのです。毎日研究室に泊ってプログラムを書きまくってましたね。そのあたりからオタクっぽくなってきた(笑)。プログラム書いてるのが気持ちよかったんですね。
まだ日本にインターネットがなかった時代です。当時はJUNET(ジェイユーネット:Japan University NETwork)という、主に大学を相互接続した電子メールを中心としたメッセージ交換用ネットワークが始まったところでした。1985年、大学4年のときに、私の居た情報工学科が、大阪大学の入口として接続され、関西での中心的なノードとして運用を始めました。そのころから、UNIXと、プログラミングと、ネットワークに本格的に取り組み始めて、そのまま大学院に進んだわけです。

日本のインターネットをつなぐ

★JUNETの創始者である村井純氏からWIDE(Widely Integrated Distributed Environment)プロジェクトに誘われたのもそのころですね。WIDEプロジェクトについて、教えていただけますか。

―ひとことでいえば、日本のインターネットを作るプロジェクト。当時、分散型情報処理を目指す、OSを中心的に考えていた研究者がいたのですが、当時のOSでは、圧倒的にネットワーク機能が弱かった。そこで、まずはネットワーク機能からどうにかしないとなぁということで集まったのがWIDEプロジェクトです。で、目をつけたのがインターネットだったのです。

★日本のインターネットの黎明期ですね。山口さんはどのような活動をされていたんですか。

―研究をやるかたわら、大阪大学の一番最初のキャンパスネットワークを作り、インターネットに接続しました。1990年には大阪大学の助手になり、情報処理教育センターのシステム更新に携わり、現在のMacOSXの原型になった NeXTシステムを400台導入することもやりましたね。当時の NeXT社の社長はスティーブ・ジョブス(アップル社の共同設立者のひとり)で、導入を記念して大阪大学で講演してもらったのは忘れられません。
それで、92年のときに奈良先端大学院大学を作るから行って立ち上げをやってこいといわれ、いきなり助教授で移籍しました。28歳のときですね。

★お若いですね。米国なんかですと、大学でネットワークを作っていた若者が起業した会社がいまや大企業に、なんてこともありますよね。当時、山口さんも起業しようと思ったりしたことはありますか。

―全然なかったね。僕はビジネスには向かないと思っていたから。本当にお金に縁のない生活だね、昔も今も(笑)。

現在のインターネットはモジモジしている?

★インターネットのあゆみと同じくしてきた山口さんの学者人生ですが、現在のインターネットの状況をどう見ていますか?

―予想の範囲内である部分とそうでない部分がありますね。Eコマース系の盛り上がりとか、あとは、クラウド・コンピューティングやマッシュアップといった情報システムの融合についてはある程度予感・予想していたことです。逆に予想していなかった部分、意外とびっくりしているのが、掲示板系のサイトが大量に生き残っていることかな。意外とモジモジしている。

★モジモジ?

―あ、文字文字、です(笑)。
掲示板なんてすぐなくなるかと思ってたらそうではなかった。それから、AA(アスキーアート:記号、文字などを組み合わせて作成された絵のこと)なんて本当に昔からあったんですよ。あれが、今でも残っているのも驚きですね。僕はもっとモジモジしなくなると思ってたんですよ。ビデオ通信とかビデオレターとかがもっと盛り上がるかなって。

★そういえば、テレビ電話も思ったほど普及していないですよね。

―今、FOMA携帯電話はテレビ電話対応なんですが、同じFOMAの人にテレビ電話でかけても誰も出てくれない。PC上のSkype等のコミュニケーションツールでも、映像付き通話というのは、普段は滅多にしないですね。掲示板や、文字を使ったチャットが多いのは、なんとも予想外だった。

リアルでやらないことはネットでもしない

★現在は、情報セキュリティのプロフェッショナルというイメージが強い山口さんですが、バックボーンを知ってなるほどと思いました。そんな山口さんにズバリおたずねします。インターネットは危険な世界だと思いますか。

―う?ん、まあ、確かにリスクはありますよね。インターネットについては、技術者の面からと、エンドユーザの面から、お互いがもっと歩み寄れることがあると思うんですね。
まず、技術者の側に対して言えば、今の状態は「技術者の敗北」といってもいいくらいのものなんです。インターネットという仕組みは、運用がぼろいと簡単に安全ではなくなる。また、今のコンピューターというのは、ユーザが知識を持っていることを前提にした製品なんですよね。その意味で、誰もがいつでも使うインフラとしては片手落ちなんです。エンドユーザがセキュリティのことをそんなに考えなくてもいいくらい、セキュアにできるように技術が頑張らなくてはいけない部分はまだたくさんあると思います。
一方で、エンドユーザ側も、すべてをわかる必要はないんだけど、わかんないなりにがんばって考えてほしいよね、ということもありますね。セキュリティを考えると、ユーザが賢いってことは、リスク低減効果が大きいのですよ。


★確かに、技術的なことは難しくても、コミュニケーションの部分の問題なら考えられますよね。

―そう、僕が言いたいのは、「君たち、リアルの世界でやらないことはネット上でもするなよ」ということですね。たとえばフィッシングサイトへのURLをすぐ踏む。踏みまくるとかですね。君たち、歌舞伎町界隈の怪しげな店を一軒一軒回っているのかと(笑)。それで自分は被害者だと言うのか、言えるのかと。
町を歩いていて、とても怪しい店で怪しいものを売っていたら、どうしますか?普通は買わないでしょう。インターネットだって同じなんです。同じなんだけど、ネット上だと突然「勇気ある者」になってしまう人が沢山いるんですね。

★下手に「ヴァーチャルな世界」なんて言うと、余計に現実味がなくなるのかもしれないですね。

―コンピューターだってリアルの世界と一緒で、危ない場所もあれば悪いやつもいる。コンピューターを通して提供されると、それだけで信頼できるものだと思ってしまう人も多いんですね。決してそうではないことをわかってくれるといいかな、と思います。

★なるほど。「リアルでしないことは、ネット上でもしない」。単純明快なポリシーですね。
たとえば「ネチケット」などといわれると何か特別なマナーがあるのかと思ってしまいがちですが、人間同士のコミュニケーションである以上、最低限のルールは変わらないのかもしれませんね。今日は興味深いお話をありがとうございました。

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