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ハッカー検事かくかたりき〜詐欺とは割に合わない稼業なり(後編)

前編では、検事としてのどこかユーモラスな日常についてうかがいました。後編では、最近急増している「インターネット詐欺」について、お話をうかがいます。

大橋充直

サイバー犯罪は「詐欺」が流行

★最近のサイバー犯罪の傾向などはありますか?

―10年から15年のスパンでみると、かつては性犯罪や猥褻がメインだったのですが、最近は詐欺がメインになりましたね。昔は詐欺の比率は低かったんですよ。これが逆転しましたね。振り込め詐欺やオークション詐欺などがどっと出てきました。

★オークション詐欺って、必ず検挙できるものなんですか?

―はい。オークション詐欺は水面下で警察が地道な検査を重ねますし、検挙技術を向上させていますから、表面だけ見ていると結構簡単に捕まるように見えるんですよ。オークションサイトにアクセスしてログが残るわけですから、それをたどっていけば必ず捕まってしまいます。オークション詐欺がなんで捕まるかというと、まず、IPアドレスのトレーシングがあります。それから、お金を振り込ませますよね。つまり、IPアドレスと現金と、二重の追跡、トレーシングで捕まえられるんです。現金の振り込み送金先として他人の通帳や他人の銀行口座を使ったとしても、ATMでお金を引き出すとき、必ず記録される防犯カメラの写真が残りますしね。

★オークション詐欺の犯人の年齢層とかは?やはり青少年が多いのでしょうか。

―そうですね。16~26歳くらいが一番多いですね。

★このブログでは、「サイバー犯罪の被害に遭わないためにこういうことに気をつけましょう」というような情報を多く発信しているのですが、逆に、犯罪をする方に「おやめなさい」と情報発信する場も必要なのでしょうか。

―うーん、そういう場が本当はあったほうがいいのですが、「どうやったら捕まる」という話をあまり詳しく説明すると、裏をかかれちゃうんですよ。私が書いている入門書も検挙テクニックは大雑把にしか書いてなくて、しかもときどき割愛したりする。これは、ちゃんと書いてしまうと捕まらないための対策がとられてしまうからなんです。こういうセキュリティでもって、こうやって防ぎます、こうやって捕まえますということを詳しく書くと、必ず裏をかかれます。だから細かい話はあまり公開しないですね。その代わり、警察大学では、ハイテク犯罪捜査官には、全部細かく徹底的に最新の検挙テクを教えています(笑)。

★一般に、サイバー犯罪ではティーンエイジャーが多いとの話ですが、いわゆる「ハッカー少年」といった子が捕まるのですか?

―優等生が多いようですね。それで、学校の勉強はもうできちゃってつまんない、と。成績はいいので、帰ってくるとコンピューターにのめりこむ。だいたい過去にスーパーハッカーと呼ばれた人たちは、だいたい高校生までに技術的には完成していますね。

大橋充直

制限か、自由か〜子供たちの可能性の問題

★「子供たちをネットの被害から守ろう」という動きは多々ありますが、「技術的に発達した子が犯罪に手を染めないように」という動きはあるんですか。

―それが今、学校関係者が頭を抱えているところなんですよ。どうやって子供に教えたらいいかと。

★一つの学校に3人はいそうですもんね。

―頭のいい子は誘惑にかられてやりますよね。世界で名だたるIT会社の創立者も、少年時代にハッキングをしたとの噂もありますし。

★少年時代の「いたずら」があったからこそ今の大手IT会社があるのかと思うと、むやみやたらに「あれもダメ、これもダメ」と制限してしまうのも・・・と思ってしまいますね。

―逆に沈滞してしまいますね。憲法の教科書を書いた佐藤幸治先生という東大の先生がいるんですけども、先生によれば「最大の自由が保障されるのは、自由が多少、濫用されている状態」だというんですね。厳しく自由を制限しちゃうと安定はするんだけど息が詰まってしまう。

★オークション詐欺などで捕まってしまった少年はどれくらいの刑になりますか?

―少年法があるので家庭裁判所行きで、保護観察処分がつく、と。めったに刑務所や少年院には行きません。というのはね、ハイテク犯罪やる子はマジメな子が多いんですよ。「なんでこんな子が?」というような子がやるんですよ。

★それはきっと「遊ぶ金ほしさに」とかいうのではなく、「いたずらをしたい」「自己顕示したい」といったモチベーションからですよね。

―そうそう。だから家庭環境も申し分ないし。学校の成績もいいと。なんでこれが、って思いますよ。今までのいわゆる非行少年の概念を外れると思います。


インターネット詐欺は割に合わない稼業である

★大橋先生はよく、「損するから悪い事はやめなさい」といったアプローチでお話をされていますね。

―捕まったらどうなるか、ということを話すのが一番効果があると思うんです。刑務所に入らなくて済んだからって、民事で訴えられた時の損害賠償金を一生背負うことになるんだぞ、と。だいたいサラリーマンになるとわかるんですが、毎月10万の住宅ローンってきついですよね。しかも1年返したって、120万にしかならない。だいたい500万から一千万の損害賠償だったとしても、最低5年はかかるんですよ。しかも学生の身分で払わないといけないとなるともっと大変でしょうね。残りの人生が借金だらけになるよ、と。

★なるほど。「ハッカー検事」としてのミッションがあるとしたら、犯罪予備軍をいかに未然に防ぐか、という活動にあるかもしれないですね。

―あの、一度捕まってみるとわかると思うんですけど(笑)、絶対割に合わないんですよ。まず、起訴されれば前科になりますし、起訴されなくても、逮捕歴、検挙歴として死ぬまでコンピューターに記録が残ってしまいます。前科の場合ですと、後の人生にずっと、資格制限というのがついてきます。たとえば、ガードマンといった仕事は前科があると、できないんですね。

★後々の人生で損をすることになる、と。下手に倫理観に訴えるより、割に合わない、といった方が、説得力がありますね。

―説得の3要素がありまして「理性に訴える」「感情に訴える」「利害得失に訴える」というのがあります。犯罪について言えば、まず、理性に訴えて通じるような人は犯罪を犯しません。感情に訴えて通じる人は、逆に激怒したらどうなるかわからない。最後の利害得失。これが一番効果があると思います。

大橋充直

(おまけコーナー)
どうなる?!裁判員制度とサイバー犯罪

★裁判員制度がはじまりました。裁判員がサイバー犯罪を裁かなければいけないといった時代が来るのでしょうか。

―裁判員制度に採用される事件は、人が死んだ事件か、それと同等の重い事件というのが大前提です。死刑とか、無期がある犯罪ですからね。交通事故のような過失は除かれます。サイバー犯罪では、あまりそこまで大きな犯罪にはならないでしょうね。

★よっぽどのことがない限り、サイバー犯罪と裁判員制度はつながらない、と。

―そうだと思いますし、つながらないことを願っています。今のハイテク犯罪で最先端のものになると、裁判官もわかんないんですよ。たとえば誰もが知っている著名な某ハイテク事件。あれは裁判官が相当苦労していましたね。まず、普通の人がP2Pの概念を理解するのに1ヵ月はかかるんです。また、被告人が2ちゃんねるに投稿した内容はかなり2ちゃん用語が満載されていますから、一般人は理解が困難なところがあると思います。

★最後に、情報セキュリティブログの感想などありましたら教えてください。

―このコーナーには、名だたる大先生が全員出ていらして、すごいな、と驚きました。武田先生の自衛隊の話、三輪さんのハッカーの定義の話などが面白いですね。

★あと、本当にこれで最後の質問です。ずっと気になっていたのですが、大橋さんのそのノートパソコンに事件の情報も入っていたりするんですか?

―ああ、いや、検事の仕事に関連する情報は全く入っていません。こっちは趣味のネットワーク犯罪ネタが(笑。

★趣味のネットワーク犯罪ネタ(笑)。さすがはハッカー検事。

―最後になりますが、誰もが知っている著名な某ハイテク事件、それから、今回お話した中で意見にわたる部分は私見つまり個人的見解ですからよろしくお願いいたします。

★承知いたしました!今回は、ざっくばらんにいろいろとお話いただき、どうもありがとうございました。

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